「こうあるべき」と考える人は病みやすい

今、5人に1人はうつ病や統合失調症などの精神疾患にかかっていると言われ ていますが、その原因にもやはり不安や、不安による考えすぎがあります。

では、具体的にどのような考えが心にダメージを生むのでしょうか?

バルセロナ大学のフェイクサスらは、161人のうつを抱える人と110人の健康な人を対象に、両者の思考の何が違うのか要因を調査しました。

この結果、明らかになったのが「葛藤」を持つ人の割合です。葛藤とはカンタンに言えば「現実と理想とのギャップ」のことで、健康な人の場合は24・5%の人が葛藤を抱えていた一方、うつの人は68・3%と、2倍以上の人が葛藤を持っていることがわかりました。さらに、葛藤を抱えるうつの人のうち80%は自殺しようとした経験があるということでした。

こうあってほしいと思う心、そうならない現実。この差が、精神状態に大きな影響を与えているとこの研究では報告されています。

もちろん人間誰しも、願望は抱えているものです。「こうあってほしい」「こうならなくてはならない」、そうした思いは育ってきた環境の中で身についていることが多く、自分がなぜ願望を抱えているか、そもそもどんな願望を持っている

ただ、このギャップというのはある種のバロメーターにもなります。どういうことかというと、心の中で抱えている不安が大きければ大きいほど、願望も大きくなりやすいのです。

つまり、不安が大きいときほど、理想は高くなる傾向があり、現実との差が大きくなっていきます。そして、ギャップが大きくなるほどよりネガティブな感情、思考に支配されやすくなるのです。

たとえば日常で、自分や人に対して「~すべき」「~であるべき」といったフレー ズを使っていないでしょうか?

「~すべき」という言葉は、「理想的な基準」を心の中で持っていることのあらわれであり、頻繁に使っているという場合は注意が必要かもしれません。

不安が大きいと、「自動思考」といって思い込みによる想像が始まることもあります。たとえば、人とちょっとした言い争いをしたときに「私は誰ともうまくやっていけない」と考えたりとか、「誰からもメールの返信が来ない。私はいじめられている」とか、そんな具合に事実を拡大解釈して、想像によって世界を見てしまうのです。では、どうすればいいでしょうか?

基本スタンスは、まずはいったん受け止めてみて「そういうものだよね、と気ラクに構える」ことです。

私たちは都合の悪いことに出会うと、環境や他人を変えたくなってしまうものですが、自分の外の世界を変えることはとても難しいことです。変わらないものを変えたい、変わってほしいと考えることは、時間もエネルギーもムダにしてし まいます。それよりも、自分の受け止め方を変えるほうがはるかにカンタンで現実的なのです。

また、メカニズムがわからない、対処のしようがまったくわからないと、不安はどんどん大きくなります。そして、わからなくて不安だから、恐れて拒絶したり、攻撃的になったりするのです。

しかし、脳は優秀です。「なるほど、こういう理屈で心の作用が起きるのか」と理解が進むと、ある程度客観的にものごとを見られるようになるのです。理性をつかさどる脳を働かせることで、感情をつかさどる脳をおさえることができるのです。そうすると、心の許容量が増えていきます。自分自身のストレス状態も把握できるようになってきて、必要以上に考える時間が少なくなってくるでしょう。

理想や基準を捨てるというのはカンタンな話ではないので、まずは「そういうものなのね」と受け止めてみる。そこからスタートしてみてはいかがでしょうか。

これは、世の中に対しても、人に対しても、自分自身に対しても同じです。人それぞれの差、行動原理の違い、仕組みに目を向けていくことで、「許せないこと」は確実に少なくしていくことができます。

ポイント
仕組みがわかってくると不安の許容量も増えてくる

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